登山・トレッキング
アクティビティー
「天狗の道トレイル」登山道整備ワークショップで学んだ自然に寄り添う道づくり
“歩く”だけでは見えなかった、山の道づくり。
天狗の道トレイル整備に参加しました
五竜岳へ続く、遠見尾根。その途中の小遠見山から少し下った先に、天狗岳へと続く「天狗の道」があります。
かつて利用されていたこの道は、現在は笹や樹木に覆われ、積雪期のみ歩くことが可能とされています。けれど今、この道をもう一度歩ける道として未来へつなぐため、少しずつ整備が進められています。「いつかは大町市の小熊山まで繋げられたら」と語るメンバーもいて、将来への可能性を感じるトレイルです。
今回整備を行ったのは、小遠見山付近から天狗岳までの約1.7km。運営チームやこれまでのワークショップ参加者の皆さんの手によって、天狗岳までの道は少しずつ形になってきています。
ただし、この道づくりは「広く、歩きやすく整える」ことだけを目指しているわけではありません。
道幅は約30cm。人ひとりが通れるほどの、決して広くはない幅です。
そこには、標高約2,000mという厳しい山岳環境の中に道を通すことで生じる自然への影響をできるだけ抑えながら、その場所にある自然の働きに支えられた道を目指す、という考えがあります。
このエリアの木々は、冬になると4mを超える雪に覆われます。積雪の重みや雪崩の力をかわすように、地面を這うような姿で育つ木々。標高が高いため植物の成長はとてもゆっくりで、直径11cmほどの幹でも樹齢70年になるものもあるそうです。そのため伐採は事前に計画した範囲で必要最小限にとどめ、行われています。
植生は表土を守り、その表土が植物の育つ基盤になっています。一度失われた植生の回復には長い時間がかかり、表土そのものが失われると、回復はさらに難しくなります。
草木に覆われていない地面は、霜柱ができては融けることを繰り返し、少しずつ崩れていきます。だからこそ天狗の道では、どこに手を入れ、どこをそのまま残すのかを、現地で表土や植生、水の流れを見ながら考えていきます。
新しく開かれた道がまっすぐではなく、スイッチバックを描くようにうねうねと続いているのも、勾配をできるだけ緩やかにするため。雨が降ったとき、登山道が水の通り道になってしまうと、勢いを増した水が土を削り、道そのものを壊してしまいます。
歩く人にとって少し遠回りに感じる道も、自然の中で長く維持していくためには大切な工夫なのです。
この日の作業は、笹刈りから始まりました。
視界を遮る笹を必要な範囲で刈り、刈った後を整える人。切ってよい木や枝を見極めながら、チェーンソーで作業を進める人。斜めになって歩きにくい路面を、少しずつ平らにならしていく人。
終盤には、滑りやすい斜面に、切った枝や幹を使って土留めを兼ねた階段をつくる作業も行いました。
はじめは「ここが本当に道になるのかな」と感じるような場所も、手を動かしていくうちに、少しずつ道の輪郭が見えてきます。
笹を刈る。枝を寄せる。足の置き場をつくる。
ひとつひとつは小さな作業でも、数時間後には、行きと帰りで見違えるほど歩きやすくなっていました。
自分の手が少し加わっただけで、道が変わっていく。
その実感は、思っていた以上にうれしいものでした。
そして同時に、普段何気なく歩いている登山道の見え方も変わりました。
足元にある一段。水が流れないようにつけられたわずかな傾き。歩きやすいように刈られた笹。
それらのひとつひとつの裏側には、誰かの時間と労力、そして自然への配慮があります。
登山道は、人の手によって整備され、守られているからこそ、私たち登山者は安全に歩くことができる。そのことを、土に触れながら改めて感じました。
この日は雨まじりの曇り空で、残念ながら山並みを望むことはできませんでした。それでも時折ガスが切れると、麓の白馬村が現れ、稲刈りの季節を迎えた緑や黄金色が入り混じる田んぼの風景はとても美しく印象的でした。
晴れた日には、このトレイルから鹿島槍ヶ岳や五竜岳、カクネ里雪渓を望む素晴らしい景色が広がるそうです。
この道が整い、季節を問わず歩けるようになったら、きっと多くの人にとって特別なルートになるはずです。
一方で、この道を育てていく時間は限られています。
標高の高い山岳地帯で作業ができるのは、雪のない6月から10月頃まで。冬のあいだ、4mを超える雪の下でこの道がどう変化するのかも、まだこれから見ていく必要があります。
だからこそ、一度整備して終わりではなく、歩き、見守り、必要な手を入れながら、少しずつ育てていくことが大切なのだと思います。
作業自体は、丁寧に教えてもらえるため、特別な技術や経験がなくても参加できます。ただし、小遠見山までは登り約90分、下り約50分のトレッキング。その後に整備作業を行うため、登山と作業を合わせて楽しめる程度の体力は必要です。
それでも、登山が好きな人にこそ、一度参加してみてほしいワークショップです。
ただ山を歩くだけでは見えなかったもの。
道ができるまでの過程。
人が自然の中に入るということ。
そして、どうすればこの場所への影響を少なくしながら、未来へつないでいけるのか。
その問いを、参加者みんなで考えながら手を動かす時間があります。
この取り組みは、株式会社五竜や宿泊施設などが参加する白馬五竜観光協会を中心に、地域の登山者やトレイルランナー、林業関係者、KABA(北アルプス自転車競技会)などと連携して進められています。
こうした地域の理解と協力があるからこそ、この道を未来へつなぐ取り組みが少しずつ前に進んでいるのだと感じました。
今年の終わりには、整備指針の見直しも予定されているそうです。どんな道にしていくのか。どこまで人の手を入れ、どこを自然に委ねるのか。
正解がひとつではないからこそ、関わる人が増え、それぞれの視点を持ち寄ることに意味があります。
「お邪魔します」
「入らせてもらいます」
山に対してそんな気持ちを持ちながら、道をつくる。
天狗の道トレイル整備ワークショップは、登山道を整えるだけでなく、山との関わり方そのものを考える時間でもありました。
この道を歩く未来の誰かのために。
そして、この景色を次の季節へ、次の世代へつないでいくために。
登山が好きな方、山の道づくりに興味がある方は、ぜひ一度参加して、一緒に天狗の道の未来を考えてみてください。
活動日:2026/9/17